遊☆戯☆王 LEGACY
第4話 厄災の星
《青眼の白龍》が公の場に姿を現した翌日。
ネオ童実野シティでは、また一つ奇妙な事件が起きていた。
市外縁部にある旧モーメント観測区画。
稼働を停止して久しい施設から、デュエルエネルギーの異常値が検出された。
だが、それはシンクロ召喚の波形ではなかった。
融合でもない。
この世界のデュエルディスクが分類できない、黒いノイズ。
* * *
「なんで私が行くんですか」
蒼は、心底嫌そうに言った。
旧市街の老人――月代は、端末から目を上げない。
「君の《スターダスト・ドラゴン》が反応した」
「それだけで?」
「それだけで十分だ」
「十分じゃないです」
隣ではミナが落ち着かない様子で立っていた。
「私も行く」
「ミナは来ないで」
「なんで?」
「危ないかもしれないから」
「蒼は行くのに?」
「……だから嫌なんだけど」
月代が短く言う。
「警備局には連絡してある。君は確認するだけでいい」
蒼はため息をついた。
「確認だけですよ」
* * *
夕刻。
旧モーメント観測区画。
錆びたフェンスの向こうに、一人の男が立っていた。
見慣れない服。
見慣れないデュエルディスク。
そして何より――そのEXデッキのカード背面から感じる、異様な圧。
蒼が足を止める。
「あなた、ここで何してるんですか」
男は振り返った。
「この世界のデュエリストか」
「質問に答えてください」
男は蒼のデュエルディスクを見る。
「白い龍。星屑の龍。二つの反応が同じ個体に重なっている」
蒼の表情が変わる。
「……何を知ってるの」
「確かめればいい」
男のデュエルディスクが起動した。
黒い光が走る。
「デュエルで」
蒼は数秒黙った。
逃げてもいい。
本来なら警備局を待てばいい。
けれど、男の背後にあるモーメント観測装置はすでに干渉を受けていた。
このまま放置する方が危険だ。
「……分かりました」
蒼もデッキをセットする。
「ただし、終わったらちゃんと説明してください」
「勝てたならな」
AOI LP 8000 INVADER LP 8000
* * *
先攻は侵入者。
最初に現れたのは《ゴルゴニック・アンブラル・ホラー》。
続いて《シャイニング・アンブラル・ホラー》。
同じレベルのモンスターが並ぶ。
蒼は盤面を見る。
「チューナーは?」
男が笑う。
「必要ない」
「……必要ない?」
「二体のモンスターを――重ねる」
二体のモンスターが黒い光へ変わった。
星が足し合わされない。
緑の光輪も現れない。
二つの光が上下に重なり、中心に暗い渦が生まれる。
蒼のデュエルディスクが警告音を鳴らした。
UNKNOWN SUMMON METHOD.
「なに、それ」
男は初めて、その言葉を告げた。
「エクシーズ召喚」
黒いカードがEXデッキから現れた。
カード上部には、蒼が知るレベルの星がない。
代わりに記されているのは――ランク。
「ランク……?」
侵入者の展開は止まらない。
《バリアンズ・ホープ》。
そして《RUM-バリアンズ・フォース》。
エクシーズモンスターの上へ、さらに黒いカードが重なっていく。
《CNo.104 仮面魔踏士アンブラル》。
さらに、《CX 冀望皇バリアン》。
同じモンスターを素材として抱え込み、ランクを上げ、別の黒い怪物へ変えていく。
蒼の知っている召喚法とは、根本から違う。
「星を……足さない」
「そうだ」
「レベルもない」
「我々には不要だ」
侵入者は複数のエクシーズモンスターと伏せカードを並べた。
「ターンエンド」
* * *
「私のターン。ドロー」
蒼は手札を見る。
《煌々たる逆転の女神》。
《幻魔の扉》。
《ダイナレスラー・パンクラトプス》。
《拮抗勝負》。
《ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン》。
そして、今引いた一枚。
正面には、未知のエクシーズ盤面。
蒼はメインフェイズでは動かなかった。
「バトルフェイズ」
侵入者の眉が動く。
「モンスターはいないぞ」
「だからです」
蒼は手札の罠を掲げた。
「《拮抗勝負》」
自分フィールドにカードが存在しないため、手札から発動。
相手フィールドのカードを一枚だけ残し、それ以外を裏側で除外させる。
黒い盤面が一気に削られていく。
「なるほど。この世界にも、盤面を崩す技術はあるか」
「普通です」
「その割には、迷いがない」
「考えてる時間が長いと、人が集まるので」
「……何の話だ」
メインフェイズ2。
蒼は《機光竜-サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する。
ATK 2100。
侵入者は残したエクシーズの効果で応じる。
サイバー・ドラゴンは盤面から処理された。
蒼は墓地と相手のEXデッキ使用回数を確認する。
このターンまでに、侵入者はEXデッキから何体ものモンスターを特殊召喚している。
「《超電磁タートル》を召喚」
ATK 0/DEF 1800。
侵入者が笑った。
「それで何をする」
「……分かりません」
「何?」
本当に、蒼にも分からなかった。
その瞬間。
EXデッキが震えた。
* * *
蒼のデュエルディスクに、存在しないはずの十五枚目が表示された。
黒。
さっきまでそこにはなかった色。
蒼は息を止める。
「……黒い、カード」
侵入者の顔から、初めて余裕が消えた。
「待て」
蒼の指がカードへ触れる。
カード名が表示された。
《厄災の星ティ・フォン》。
ランク12。
ATK 2900/DEF 2900。
「ランク……12?」
デュエルディスクが召喚条件を解析する。
相手がEXデッキから二体以上を特殊召喚したターン、またはその次のターン。
自分フィールドで最も攻撃力が高いモンスターの上に重ねて、エクシーズ召喚できる。
蒼は《超電磁タートル》を見る。
そして、侵入者を見る。
「これも……重ねればいいの?」
「やめろ」
初めて、男の声に焦りが混じった。
「そのカードはどこで手に入れた」
「さあ?」
「あり得ない」
「・・・ふ」
「《超電磁タートル》に重ねる――エクシーズ召喚」
「現れて。《厄災の星ティ・フォン》」
黒い空間がフィールドの足元に開いた。
《超電磁タートル》が光となって、その中心へ沈む。
だが、侵入者のエクシーズとは違った。
黒いのに、同じ黒ではない。
夜空そのものを切り取ったような暗さの中から、巨大な異形が姿を現す。
ランク12。
ATK 2900。
侵入者が呟いた。
「……違う」
「何が?」
「そのエクシーズは、我々のものではない」
蒼はティ・フォンを見る。
《厄災の星ティ・フォン》がエクシーズ召喚されている限り、攻撃力3000以上のモンスターは効果を発動できない。
そして一ターンに一度、エクシーズ素材を一つ取り除き、フィールドのモンスター一体を手札へ戻せる。
「素材を一つ取り除く」
《超電磁タートル》が光となってティ・フォンから外れる。
「あなたのモンスターを戻します」
巨大なエクシーズモンスターの一体が盤面から消える。
侵入者は黙ってそれを見た。
蒼はターンを終える。
* * *
次の攻防でも、侵入者はエクシーズを止めなかった。
《ゴルゴニック・アンブラル・ホラー》を再び展開し、黒いカードとRUMを使って盤面を作り直していく。
だがティ・フォンがいる限り、高打点のエクシーズは思うように効果を使えない。
侵入者は攻撃とランクアップを織り交ぜ、ティ・フォンを突破しようとする。
「やらせはしない!!墓地の超電磁タートルの効果発動!!このターンのバトルを強制終了する!!」
そして蒼の次のターン。
ティ・フォンが攻撃する。
相手の攻撃力500のモンスターを撃破。
差は2400。
INVADER LP 8000 → 5600。
侵入者が初めて大きくよろめいた。
「エクシーズを……使ったこともない人間が……!」
メインフェイズ2。
蒼は《スタージャンク・シンクロン》を召喚。
墓地のカードを使って星を揃える。
ここからは、蒼が知っている召喚法だった。
「チューニング」
緑の光輪。
黒い渦ではない。
星が一列に並ぶ。
「シンクロ召喚。《スターダスト・ドラゴン》」
白銀の龍がティ・フォンとは正反対の光を放つ。
黒い星と白い星。
侵入者は二体を見比べた。
「一人のデュエリストが、両方を……」
* * *
侵入者のターン。
《セブンス・アセンション》。
さらにバリアンの名を持つ魔法カード。
《RUM-クイック・カオス》。
一度崩された黒い盤面が、また形を変える。
エクシーズモンスターの上へエクシーズを重ねる。
ランクを上げ、効果を引き継ぎ、別の怪物へ。
蒼も無傷では済まない。
効果によるダメージを受け、ライフを削られる。
それでも、盤面を見る目は変わらない。
「私のターン」
《マジックカード「死者蘇生」》を発動した。
墓地へ送られたスターダスト・ドラゴンを呼び戻す。
「さらに《ジェット・シンクロン》を通常召喚!
レベル8のモンスターに、レベル1の《ジェット・シンクロン》をチューニング」
九つの星が並ぶ。
「シンクロ召喚。《電脳堺狐-仙々》」
ATK 2800。
仙々がフィールドへ降り立つ。
侵入者が黒いカードを使うなら、蒼は自分が知る星で対抗する。
《電脳堺狐-仙々》が攻撃を通し、侵入者のライフをさらに削る。
INVADER LP 5200 → 2900。
* * *
それでも侵入者は倒れない。
《RUM-クイック・カオス》。
《No.104 仮面魔踏士シャイニング》。
バリアンの魔法。
何度盤面を崩しても、黒いカードは姿を変えて戻ってくる。
侵入者のライフは2500。
蒼のライフは6700。
ライフこそ優勢なものの蒼のフィールドには《電脳堺狐-仙々》のみ。
対して侵入者の場には攻撃力7000のカオスバリアンドラゴン、そして攻撃力3000のアンブラル・ヴィクトリー。仙々はたおされ、場はがら空きとなった。
「これで終わりだ。モンスターで攻撃!!」
その瞬間、侵入者のすべてのカードが消え去った
信じられない光景に侵入者は言葉を失った
「な・・・何がおきた・・・俺のモンスターたちはなぜ消滅した!?」
「それはこのカードが発動したからよ」
おもむろに墓地のカードを相手に見せる。
「このカードは煌々たる逆転の女神。場にカードがなく、手札にこのカード1枚のみの場合、このカードを捨てて発動できる。相手のフィールドのカードをすべて破壊する。」
「な、なんだと!?そんな馬鹿な!!」
「それだけじゃない!!この効果には続きがある。相手のカードを破壊したのちデッキからモンスターを一体特殊召喚! きて!!《ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン》!!!」
ATK 3000。墓地には青眼の白龍が眠っていた。
「こんなことが・・・く、、だが、まだ私はターンは終わってはいない。」
侵入者は手札をみる。この状況を打破できるカードはないが次のターンさえしのげれば・・
そう考え、行動にうつす
「ゴルゴニックアンブラルの効果!!このカードを守備表示で特殊召喚!!更に伏せカードを3枚ふせてターン終了!!」
汗が地面へ滴る。それは焦りだった。その隙を蒼は見逃さなかった
「私のターン!・・・あなたにはもう手は残されていないようね。終わらせてあげる。墓地のモンスターの効果を発動!!」
《電脳堺狐-仙々》、自らの効果で戦線へ戻る。
二体のモンスターが並んだ。
「そ、そんな・・・」
侵入者のライフ――2500。
蒼は盤面を確認する。
伏せカードはあるものの、それがブラフだと見抜いていた
「バトル」
* * *
《ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン》が翼を広げる。
白銀の噴射光が、黒いフィールドを真っ直ぐに切り裂いた。
「ダイレクトアタック」
「くっ!!」
青白い衝撃が男を飲み込む。
3000ダメージ。
INVADER LP 2500 → 0。
WIN――AOI
* * *
デュエルフィールドが消える。
蒼はすぐにEXデッキを開いた。
そこに、黒いカードがある。
《厄災の星ティ・フォン》。
幻ではない。
デュエルが終わっても消えていない。
「……これ、どうしたらいいんだろ」
侵入者が立ち上がる。
「返せ」
「あなたのじゃないんでしょ」
男は言葉に詰まった。
「そのカードは、この世界に存在するはずがない」
「あなたたちのカードも、昨日まで存在してなかったと思うけど」
「同じではない」
蒼はティ・フォンを見る。
「じゃあ、何なの」
侵入者は答えなかった。
代わりに、遠くから警備局のサイレンが聞こえる。
男の周囲に黒い亀裂が走った。
「待って!」
蒼が手を伸ばす。
「次に会う時まで、そのカードを持っていろ」
「?」
男の姿が亀裂の向こうへ消える。
「……わけがわからないわ」
蒼は小さく呟いた。
* * *
数分後。
月代は通信越しにティ・フォンのデータを見ていた。
「ランク12……」
「知ってるんですか」
「いや」
月代は即答した。
「少なくとも、我々の記録にはない」
「・・・・」
蒼は黒いカードをデッキケースへ入れる。
白いシンクロカードの隣に。
《スターダスト・ドラゴン》。
《ブラック・ローズ・ドラゴン》。
そして黒い《厄災の星ティ・フォン》。
三枚は、まるで最初からそこにいたように並んでいた。
* * *
別の場所。
侵入者が戻った空間には、複数の影が待っていた。
「敗れたか」
「問題はそこではない」
男は言う。
「あの世界の少女が、エクシーズを召喚した」
空気が止まる。
「《厄災の星ティ・フォン》」
その名を聞いた瞬間、一人だけが顔を上げた。
「……そのカードは」
「知っているのか?」
返事はなかった。
ただ、闇の奥で何かが動いた。
続く
参考動画:
ベクターさん。勝ったと思いましたか?
— syatyou (@syatyou6) 2026年7月20日
残念、その攻撃をずっと待っていたのさ pic.twitter.com/B4hKfhcr32







